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小説版 早稲田戦士ウイング【5】

5章 『残夏の雨』

「ああああああ!! 痛い! 痛い!! なんで私の邪魔をするの、早く消えてよ!」

ネイビーマシンの一撃がアスファルトを抉る。これは修理が大変そう。

『ウイング! 右!』

「分かっている!」

右からの攻撃を左にいなし、そのまま腕をつかんで投げ飛ばす。
吹っ飛ばされたネイビーマシンは壁に激突した。

『とにかく、あの装甲を剥いでやれば良いんだ……ウイング!
装甲の切れ目、見える!?』

「愚問! モータルフラップ!!」

ウイングは二対の青い短剣を召喚し、両手に握る。
瞬間、ネイビーマシンは自らの後ろの壁を踏み台代わりに蹴り出し、こちらに猛スピードで突進してきた。
喉元に飛んでくるナイフを右の短剣で何とか受け止める。

「くうううう!!」

先の戦いでも思ったが、相手はだいぶ速い。
スピードでは明らかこちらより上だった。

「なんのっ!!」

ウイングは空中に弾かれた体をねじり、ネイビーマシンの胸のあたりを十字に引き裂く。

『一つ目!』

トシキさんから聞いたアラゴの装甲のパーツ構成を考えると……

『切れ目はあと4つ! 両手両足!』

「しかも中身を傷つけずにだろう!?全く無茶な注文をしてくれる!!」

ネイビーマシンの方を見ると、奴は唐突に右手を地面に叩きつけているのが見えた。

『アイツ、何を!?』

その瞬間、強力な力で体が引っ張られるのが分かった。

『!? な、なにこれ!』

ウイングはとっさに地面に伏し、なんとかその場に留った。
が、依然としてかなり強い力が引っ張ってくる。

「これは……磁力か!」

『磁力!?』

「ああ、さっき交錯した際何か仕掛けられたのだろう、磁石で言うと、いま私たちはN極にされ、奴がS極だということ……」

アラゴの装甲・別名〈電磁危械〉、トシキさんが言っていたけど、なるほどね……

「そして、奴はおそらく地面と自らの足を磁力で接着している。
だからこの磁場の中でも平気で同じ場所にとどまっていられるんだ――グッ!!」

より磁力が強くなったらしく、体にかかる負荷が重くなる。

「私の磁力はどう!? くっつけるも切り離すも私次第!!」

耐えられなくなり、体が地面を離れる。
ものすごいスピードでネイビーマシンの方に吸い付いて言った僕の体は、その勢いのままカウンターの蹴りを食らった。

「かはっ……!」

「あははは! 大ダメージ!」

今度は僕らがS極にされたらしく、遠くに吹っ飛ばされ、距離が出るとまた吸い付けられて思い切り蹴られる。
振り子のような激しい繰り返しは続き、僕とウイングの体力は限界だった。
痛かった。
死にそうだった、もうやめたい、心の底からそう思った。
それでも、僕の体は立ち上がった。

「……痛むか、択人」

『ああ……痛過ぎてブチ切れそうだよ』

「ははっ、言うじゃないか……まだやれるな?」

『やりたくないけどね…やんなきゃいけないから』

「――なんで!!」

ネイビーマシンは叫んだ

「なんで立ち上がるの!
いっぱい痛い思いしたでしょ、もう痛いのは嫌でしょ!?
傷付くってわかってて、なんでまだ立つのよ!」

「……分かっていないな、光ヶ丘さんとやら」

「何が! 何が分かってないの!」

「痛い、ってことの本当の意味をさ……この痛みは、私と択人はつなげてくれる大切なものだ……
互いにどういうことで傷つき、痛み、悲しんだか。私たちはそれを知っている。
だから共にそれを乗り越え、強くなれる……!
こういうことが分からない君は、寂しい奴だよ」

「う、うるさい……! つながるなんて、傷つくだけなのに……なんで、なんでー!!!」

また先ほどの磁気嵐、引っ張られる……! しかし、僕にはウイングの次の行動が分かっていた。

「択人! 飛び込むぞ!!」

『ああ!』

僕らは磁力の引き寄せる力を逆に利用しネイビーマシンに突っ込んでいった。
磁力があるから空中での自由が利かないこちらが圧倒的に不利。
目標地点ではネイビーマシンがナイフを構えるのが見えた。

「バカ!! 正面から来るなんて!!」

それでも、ウイングなら……!

『ウイング、お前を信じる!
だから頼む、咲良さんを…!』

「――私を誰だと思っている!」

お互いの体が激突しそうになった刹那、ウイングはモータルフラップで強風を巻き起こし、接触のタイミングをコンマ数秒ずらした。
ほんの数瞬。しかしその数瞬の支配権は、この超スピードの戦いにおいては決定的であった。

「私は! 早稲田戦士……ウイングだっ!!」

ウイングは相手のナイフを下方向に弾きその勢いのまま回転、放物線を描きながらネイビーマシンの頭上を飛び越え背後に着地した。

「モータルッッ! プレゼンティオール!!!」

ウイングの両手の短剣は、両手両足、振り向いたネイビーマシンの装甲を引き裂いた。見事な手際だった。
ネイビーマシンは機能を停止したらしく、装甲がボロボロと剥がれ落ちる。
そこには、光ヶ丘咲良が立っていた。顔はやつれ、誰が見ても分かるほど彼女は弱り切っていた。
僕は、いてもたってもいられなかった。

「咲良さん!!」

ウイングとの同化を解いた僕は、足元の装甲を蹴散らして彼女に駆け付けた。
すると彼女は立つ力を失いその場に倒れてしまった。僕は彼女を抱きかかえる。

「咲良さん! 咲良さん!」

「……そんなに叫ばなくても、聞こえてるよ。白羽くん」

「咲良さん! 良かった……ウイング! 日野に頼んで救急車呼んで!
それと、トシキさん通して炎児さんにも連絡を!」

『分かった!』

ウイングは行ってしまい、夜のキャンパスには、僕と咲良さんの二人だけになった。
すると、ぽつぽつと雨が降ってきた。この夏は本当に雨が多くて嫌になる。

「ねえ、白羽君」

「うん?」

「私のこと、好きって本当?」

「……うん。たぶん本当」

「ふふっ、たぶんなの?」

「だって僕には、何があればその人のこと、『本当に』好きだって言えるのか分かんないし」

「……じゃあ私のどこを好きになったの?」

それは、赤羽にもされた質問だった。
――美人だから?違う。優しいから?違う。
良い匂いがするから?違う。
髪が綺麗だから?違う。
一緒に居て落ち着くから?違う。
助けてもらったから?違う。
敵だったから?もちろん違う。
どれをつまみ出して考えてみても、どうしても正解だとは思えなかった。

「……どこが好きかなんて、言えないよ。でも好きなんだ」

「……」

「咲良さんがここが好き、じゃなくて……
たぶん咲良さんが咲良さんだから、好きになったんじゃないかな」

「!」

自分で言っていて意味が分からなかったが、とにかくそれが、精一杯の答えだった。
しばらくの静寂。そのあと急に、咲良さんの目から涙が流れた。

「ご、ごめん! 良く分からないよね、俺も自分で何言ってんだか――」

「違うよ……嬉しいの……私、人からそんなこと言ってもらったことなかったから……」

――光ヶ丘咲良は、結局のところ、彼女自身の寂しさを、誰にも埋めてもらったことが無かったひとなのかもしれない。

「白羽君、もっと強く抱きしめて」

「え?でも……」

「お願い」

僕は少しのためらいの後、彼女の華奢な体を強く抱いた。
初めて会った時彼女がそうしてくれたように、彼女の寂しさに触れられるように。
9月のまだ少し温かい雨が、疲れ切った僕たちを優しく濡らしていった。

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