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小説版 早稲田戦士ウイング【4】

4章 『対話』

 

「炎児さんからの情報では、君たちがネイビーマシンと呼んでるあの怪人、確かに択人くんの言う通り、人間が変身しているらしい」

僕は夕暮れに独り大学のベンチに座って電話越しにトシキさんの声を聞いていた。
〈炎児さん〉というのは、かつてウイングがトシキさんに憑依していた時期、ウイングと共闘していた蒲田炎児さんのことだった。
卒業した後、警察機関に就職し現在も人々の平和を守っている。だから彼からの筋の情報の確実性は高い。

「〈アラゴの装甲〉……少し前にニュースになったでしょ?あれが盗まれたって」

聞いたことはあった。確か、国が運営している研究所から大胆不敵に盗み出された機械製の鎧。
犯人は全くの不明。

「ネイビーマシンの正体は、その〈アラゴの装甲〉が人に纏わりついたものなんだって…
纏わりつかれた人は自我を失い、自分が何をしているのかも分からない」

「……」

「そして大事なのは、それを纏える人間には条件がある。
……強い憎しみと敵意を持っている人間。
何かが憎い、消してやりたいという気持ちが〈アラゴの装甲〉の動力源になり、そういう人にアレは寄っていく」

つまり、光ヶ丘咲良は、そういう人間だったということになる。
強い憎しみと、敵意を持つ人間。
ネイビーマシンと対峙した時の刺さるような敵意が思い出される。

「……光ヶ丘咲良って人についても、色々調べてもらったよ」

トシキさんの話では、咲良さんはごく普通の家庭で育った普通の女の子だったらしい。
しかし、中学2年の頃、彼女は転校を繰り返している。
理由はいじめ。彼女はどこに行っても同年代の女子に疎まれ、嫌われてしまった。
時には切り傷まで受けて帰宅するような娘を案じて、母親は咲良さんを外に出さなくなった。
それが高校1年のとき。家庭教師を雇っていたのと、もともと咲良さんが優秀だったという事もあり、学業面は問題なく、そのまま大学にも入学でき、その後はいじめを受けることもなく、ありきたりな女子大生をやれていた。

「でも、彼女の中には何か黒いものが残り続けちゃったんだろうね……。
暗闇って、一度入っちゃうと、一人で抜け出すのはとっても難しいから」

トシキさんのその言葉には、どことなく重みがあった。
その暗闇の恐さを、身を以て知っている話し方だった。

「――いろいろ教えてくれて、ありがとうございました」

「択人くん大丈夫?その光ヶ丘って人、択人くんの……」

「大丈夫です、今は、僕がウイングですから」

「そう……だったらいいけど。
でも一人で頑張るのって、キツイよ」

「……はい。ありがとうございました」

僕は電話を切った。
夕日は既に沈み、曇り空はすっかり暗くなってしまった。
僕は立ち上がり、歩き始める。

「……ねえウイング」

『うん?』

「ウイングって人間のこと、好き?」

『そりゃ、好きさ』

「僕は……わかんないな。好きな時もあるし、嫌いな時もある」

僕は歩く。

「でも咲良さんは、きっと嫌いって言うんだろうな」

『……』

僕が知ってる優しげな咲良さんと、人間なんて嫌いだと言い放つ咲良さんの姿が、視界に浮かび、重なり、そして消えていった。
気づいたら、雨が降ってきた。小雨、いや、霧雨と言って良いくらいの雨。

「……その人を傷つけて、消し去りたいって思うほどの気持ちって、どんな気持ちなのかな」

それは、思う側だってとてもつらい気持ちのはずだ。
僕は、何かを殴った時の拳が痛いという事を知っている。

「……人間ね……確かに世の中、ヤな奴ばっかだよな」

『……そうだな。良い人間だけならば、私のようなヒーローはいらない』

「そりゃそうだ……」

霧雨は降り続くのに、僕含め傘をさしている人はほとんどいない。
車のヘッドライトなどに照らされた雨粒以外は視認も難しい。そんな程度の雨。

「……でもさ、なんだろう、人って…もしかしたらこういう雨みたいなものなのかも」

『雨?』

「うん。雨」

僕は歩く。

「こういう雨って、基本ウザいけど、ほっといても進んでいけるだろ?。
傘をさせば、この不愉快さからも逃れられる。
……でも時には恵みの雨になる時があるし、本当は雨が無かったら、僕らは生きていけない」

僕は雨の中を歩く。

「人間って……他人ってさ、僕らにとってそういう……雨みたいなものなんじゃないかな」

『――択人にしては、言い得て妙だな』

「なんだよ、それ。
……雨がうざいからって、雨を無くして良い?そんなわけ、ないよな」

『ああ』

「だったら、僕らがすべきことは……」

雨は次第に強くなり、周りの人は続々と傘を差し始めた。
勿論僕は傘など持っていない。

『それで? 今傘が無いと、風邪をひくのは択人なんだがな?』

「人の体を一方的に使っといて、他人事なんだからもう!」

僕は雨の中を走りだした。
服が濡れて、体に張り付く。不愉快だ。
しかし、雨の中を一直線に走るのは、少しだけ気持ちよかった。

 

2017年9月30日、土曜日。光ヶ丘咲良と僕が出会ってからちょうど1か月。
僕とウイングは、早稲田大学文学学術院に向かっていた。
通称文キャン、毎週土曜の21時ごろ、そこに紺色の怪人が現われるというSNSの目撃情報を、日野が教えてくれた。

「――なぁ択人、こんなことになったから、あえて聞くんだけどよ。
おまえ、その光ヶ丘って女のどこを好きになったんだ?」

僕は答えられなかった。

「……お前がつらいのは分かるけどさ……一目惚れって言うのは、やっぱり気の迷いって言うことが多いんだよ。
だからさ、あんまり気にし過ぎんなよ」

日野の言っている通りなのかもしれない。
僕は、本当に彼女を好きだったのだろうか、それは分からない。
文キャンに着いた。そこには情報通り、平和なはずのキャンパスで明らかに違和感を放つ存在が居た。
紺色の装甲が月の光に映えて、美しく思えた。思えてしまった。

「――白羽、択人。
まさかあなたがウイングだったなんてね」

彼女の声は、僕をかつて救ってくれた澄んだ女性の声ではなく、そこに黒く低い男の声とノイズが混ざった機械音声だった。

「さんざん邪魔をして……」

「光ヶ丘さん、僕は……僕は君の事が好きだ」

「……はぁ?」

「人を好きになったことが無いから分からないけど、これはきっとそういう気持ち」

「……」

「だから、僕は君と戦いたくない。
アラゴの装甲を返して。そのマシーンは、君には危険なんだ」

「ふふふ……白羽君、やっぱり面白いね。
私の事を好きなんて嘘。ドーナツの時より酷いよ、すぐわかる」

「嘘なんかじゃ……」

「嘘だ!!」

僕は初めて彼女の叫び声を聞いた

「他人なんか、私を傷つけるだけ……痛いのはもう嫌!!」

「……」

「周りの人と関わったって、それは痛みを生むだけ!!
もう耐えられないの、こんな人間がいっぱい居る世の中!!
だから私はこの機械を使って、一人で生き抜く!!
アンタら他人なんか要らない!!」

彼女、ネイビーマシンは左手にナイフを持ち替え、戦闘態勢を取る

「光ヶ丘さん……!」

『択人、もういい。代われ』

ウイングが僕の体を乗っ取り、僕の身体が白い戦士に変わる。
つまりこちらも戦闘態勢。

『ちょ、ちょっと待って! ウイング―』

「戦うのは私の役目だ。択人には、そのあとを任す」

『その、あと……』

「――さぁネイビーマシン、いや光ヶ丘咲良さん?
決着をつけようか!」

「ウイング……一人では戦闘体になる事も出来ない不完全な存在が……!」

「ほう、よく知っているな」

「誰かと一緒じゃなきゃ得られない力なんて屑以下よ!

私が負けるはずがない!」

「なら試してみるか?
一人では戦えない、不完全な私たちの力を……!」

沈黙は数秒だった。
そうして僕らと光ヶ丘咲良の、最後の触れ合いは始まった。

 

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